エゴカリプス創作小説

【創作小説】エゴカリプス 1話

『今日も飛び降り自殺の事故がありました。
亡くなったのは、集団暴行を扇動した―』
『力があったのに死ぬなんて、もったいないですね。
これは、専門家の心のケアが必要でしょう。
若い命が散っていくのは、悲しいことです(ヘラヘラ)』
『力を持ってる奴、権威を嫌ってるのは馬鹿だ!
〇〇先生を嫌ってる奴の特徴が分かった!(ヘラヘラニタニタ)』

…。
力。

エゴが増幅したことでエネルギーを放出できるようになった人間が現れた。
それにより、そのエネルギーに当たったり、当てられると死ぬような人間まで現れた。

世の中がおかしくなり始めている。
エゴを認識できている人間には効かないが、99%はそうじゃない。

だから、惑わされ、洗脳され、おかしくなる。
結果として一部のエネルギーを放出できるのがいただけで、傷つき死ぬことになる。

常に殴り合いだ。物理的なことをせずとも、エネルギーを飛ばせると分かった輩は、そういうことをせずとも相手をいたぶれると知っている。
それにより日常に争いが絶えず、勝ち負けに固執するようになった。

勝った方が強い、偉い。
誰が決めたか知らない勝手なルールを信じ、それが刷り込みだということすら知らない。分からない。

弱者は従うべき、従わせ、自分の力を誇示し、弱い者ほど群れたがる。
群れなければ、自分が弱いと認めてしまうから。巨大な集団があればあるほど、弱者は群れたがる。

数がいれば強いと思っている。実際は、集団の頭が潰されるだけで逃げ出すほど弱い。

彼らは強いのではない。
エゴに憑りつかれ、恐れと恐怖のみが先行していることでその力が出ているだけだ。

エゴが強いものはエゴに反応する。だから、エゴの力を使っている人間に反応し、死にやすい。
他者への思いやりなどないのだ。恐れがあるから。

裏切られるかもしれない、見返りがないかもしれない。
必要のない期待、見返りを求めるから。愛があるなら、そんな見返りなど考えず他者の嬉しい顔を考えればいい。

だが、それができないから、エゴの力を振りかざして屈服させる。

結果として、犯罪組織や、半グレよりも質が悪い集団が形成された。
これらはエゴの力をどう使えばいいか知っているから。力を利用し、自分の弱さを隠しているだけ。

そうしなければ、本当の自分が晒され、弱い自分を人に見せることになる恐怖。
エゴの力を使っている連中のほとんどはこれだ。

龍也:
(迷惑なことだな…。弱い奴ほどよく吠え、群れる)
(そんなだから、この世界が滅ぶんだよ。みんなの幸せを、何故願えないんだ?)

目の前にある花たちは何があっても変わらず、自然のままに生きていた。
自然に合わせて花が咲き、花が散り、成長して来年の養分を蓄えたりする。

人間はどうだろう?
自然に反しているからエゴにまみれてしまった。楽な方へ楽な方へ。

動物を見ても、彼らも自然に生きていた。
生きることに精一杯、人間よりも短い命を燃やしていた。

それは美しいことだと思う。人間も、彼らの生き方を見習うべきだった。

だが、人間は自分たちさえよければ、動物は皆殺し、食べ物がなければそれらを食べればいい。
身勝手なことを繰り返し、ついにはカネのためだけに絶滅させた。

さらには、食べ物としての価値を上げるためだけに改良し、形まで変え始めた。
…これのどこが知的生物なのだろうか?

野蛮人ではないのか?

この文明は過去にあったどんな文明よりも未熟で、劣悪な、未来に人類が発生して文明を見つけた場合は馬鹿にされる文明だろう。

誰も見たことのないものをあるように喧伝し、それらを自分の目で見てもいないのに信じ込む人々。
未来で文明が滅んだ要因を解明した人が思うことは多分、『この文明は馬鹿が多かったんだろう』ということだ。

龍也:
(あんまり良くないのが近くにいるな)

友樹:
邪魔すると、ぶっ飛ばすぞ?
エネルギーを飛ばせるから、怖いだろ? はははっ。
はぁ、ムカつくなぁ。群れてるだけで大したことのない連中が、デカい顔してイキりやがって。

龍也:
(ほう? 少しは分かってるようだが、力の向きが違えばよかったのにな)

友樹:
喉乾いたな。おい、カネ出せ。
エネルギーを飛ばせるから、痛い目に遭いたくなければ、ジュース代だけでいいから出せ。

龍也:
…。
出さなくていいですよ。今のうちに逃げてください。

友樹:
なんだ、おっさん。
代わりにあんたが出してくれるのか? 出さないなら、痛い目に遭わす。
かっこ気取りしたのを後悔させ、無様に転がって辱めにさせてやるよ。

龍也:
カネは出さん。帰れ。目障りだ。
エゴに囚われ、弱い自分を隠し、虚勢を張ってる弱者。
それがお前らのような存在の正体だ。馬鹿、阿呆、クズ、好きなのを選べ。

友樹:
この野郎、馬鹿はてめーだよ! 力を持ってる奴に歯向かってる時点でな。

龍也:
(はぁ、この程度の挑発ですぐに反応するほど、沸点が低い奴らなんだよなぁ…)
力があれば偉いのか。なら、もっと悪事を働いている奴らをその力でどうにかしろよ。
一緒になって悪党になって何やってんだ。結局、悪党同士で結託して搾取しないと生きられないクズってな。
本当は弱いのを隠すために、その力が使えるようになっただけ。

友樹:
なめんなよ、俺は、強いんだよ!
お前なんて殺してやる!

龍也:
おーおー、威勢がいいな。エゴがあっさり反応するか。精神不安定だな。
やれるものならやってみろ。別にこっちはいつ死んでも悔いはないからな。
まぁ、まだ殺したこともないんだろうがな。だからここにいるんだろ? 口先だけで殺すって言ってるのは、子供の戯言だな。
殺したことがあるなら、笑いながらもう攻撃してるだろうしな。それで無理やりにでも奪っていくはずだ。
それに、お前が俺を殺すことでお前はまた罪を重ね、苦しみが増す。
エゴに囚われることになるがな。
殺すなんてやめとけ。俺がお前を助けてやるよ。

友樹:
そんなこと言って、結局死ぬのが怖いんじゃねーか!
死ねや! とっておきの一撃で終わらせてやる!

龍也:
その威勢で本当に殺したら、後悔するのにな…。分かってないなぁ。
基本的にエゴの力使ってる奴らって、中二病みたいなもんだよな。俺Tueeeeしたいだけ。
あー、これが今流行ってるエゴの技か。
…だが、この程度か。

友樹:
直撃して死ね!
…なんで効いてないんだ!?

龍也:
いや、この程度じゃ死なないぞ?エゴまみれの奴には効果はあるだろうが。
エゴで増長させて、見た目だけがでかいただのエネルギーだな。
あ、そうやって相手からエネルギーを奪ってるわけか。
さっき俺が言っただろう? 助けてやるって。だから、俺には勝てないよ。

友樹:
ふざけるな!
今まで俺は、こうやって相手を倒してきたんだ!
なんで普通の奴に効かないんだよ!
当たらない! 全部、反れてる!

龍也:
まあ、普通じゃないっていうのもあるけどな。
エゴを認識し、反応せず、眺めることができるようになればな。
そうやって、エゴの技に頼るか、最終的に物理攻撃に頼る。駄々っ子のようなもんだ。
相手を殴れば相手は痛い。殴った手も痛い、痛いのは嫌だろ? なんでそれが分からない?
それで気が済むまで、死ぬまでやる気か。そうやって周りを巻き込む気か。
迷惑なことだな…。

友樹:
うるさいうるさい!

龍也:
はぁ、やれやれ。
図星のようだ。否定するか、喚き散らすか、いずれかの反応しかしないからな。
そうやって、誰も相手にしなくなった結果だろうがな…。助けてやるよ。

友樹:
こ、こっちに来るな! 来るんじゃねぇ!
当たれ! 吹っ飛べ!

龍也:
いや、無理だわ。
エゴだって完全に分かったから、どんなに虚勢を張ろうがエゴの攻撃は俺には効かない。
当たろうがダメージはほぼない。大きく見せてるだけで、お前の攻撃はスポンジを投げてるだけだ。
端的に言えば、テンプレの暴言を言い続ける子供のようなものだな。
大人は子供に言われても本気で怒るか? 怒らないよな。そういうことだ。

友樹:
(なんだ? 異様に大きく見える…?
俺が、負ける?)

龍也:
さて、ちょっと反撃してやろうか。
怖いか? 攻撃がまったく当たらなくて、今まで見たことないタイプで恐怖しているのか?
エゴが反応しているんだろう? 『何故だ何故だ何故だ?』と。
痛い一撃を食らわせてやるぞ! 恐怖しろ! エゴで反応してみろ!

友樹:
クソ! お前も物理に頼るんだろ!
!!!

龍也:
そーれ、デコピン。

友樹:
いってぇ!
な!? え!?

龍也:
痛いだろ? 拳で殴ったら俺も手が痛いし、お前も痛いだろ。
物理でそうなんだから、心はもっと痛いんだよ。
人を傷つければ相手は痛い。人によってはそれで死ぬんだ。
それが分からない奴らも全員死ぬことになる。いつまでやれば気が済むんだ?

友樹:
…。

龍也:
人にひどいことをした奴らは、例外なく全員死んでる。
自因自果の法則、因果応報とも呼ぶ。誰かに殺されるか、自分で死ぬかいずれかだ。
このままじゃ、いつか死ぬぞ?
弱い奴ほど群れるが、お前は一人だったな。そう考えれば弱いわけじゃない。

友樹:
だが、勝てなかった。俺は負けた。
警察に突き出すなり好きにしろ。

龍也:
エゴにエゴをぶつけるから、エゴが増長するんだ。
愛で接すれば、エゴの反応は消える。
エゴの技に対しては愛を、無理なら相手のエゴに反応せず無視すればいい。
するとどうだ、エゴの技は効かないわけだ。

友樹:
なんだよ、勝てなかったから理屈を教えるのかよ。

龍也:
理屈と言えば理屈だが、本質だな。
エゴがひどいのは凶器を持ってるが、お前は持ってないようだしな。だから接近できる。
凶器を持って脅しに来るようなのは、実際に殺傷したら慌てて逃げ出し、耐えきれなくて自殺するからな。
逆に、相手はエゴにまみれている以上、自分に死の恐怖があれば、エゴが最も加速するから、
それを刺激してやれば隙だらけになる。
こんなことやってると、お前もいつか確実に死ぬぞ? 越えちゃいけない一線を越えたら終わりだ。
殺人とか犯罪、これらは越えちゃいけない一線だな。

友樹:
死ぬ…?

龍也:
最近死んでるの多いよな。
飛び降り自殺、薬物中毒、精神病。全部エゴにやられてるんだろ。
しかも、どいつもこいつも、エゴで増長して攻撃的になってる奴ばっかり。
ターニングポイントは過ぎてるから、そろそろ終わりが来るのかもな。

友樹:
エゴで死んでるっていうのか…?

龍也:
ようやく冷静になってきたか。エゴの能力使ってる奴ら全員死ぬ。
エゴの好物は恐れや恐怖、感情やあらゆるものになる。嫉妬もそうだ。
だから、死の恐怖を感じるようなのはエゴに囚われてるから死にやすい。
自分がやったことに対して耐えられなくなって自殺するのもいる。さっき言った殺傷だけでも不安定になる。

友樹:
集団で群れてる奴ら、武装してるな…。
だけど、暴行をしてもまだ生きてる。まだ死んでない。

龍也:
今日もニュースになってて、死んでるんだがな。そうじゃなくても、記事にならないだけで死んでる。
他者を攻撃してエネルギーを奪おうとしてる奴らもそうだし、
自分の立場が脅かされれば、あるいは他者の成功とか自分以外が幸せが許せないと思ってるのも。
そう思ってる奴らはおかしくなって死んでるんだろ。妬みで、自分はうまくいかない、だから飛び降り自殺すると。
そうやって異世界にでも行けたらいいなぁとか思っておかしくなってるのもいるし、現実に帰ってこい。

友樹:
自殺すれば、ある意味で楽になるってことか。

龍也:
それは逃げだがな。
死んでも解決しないから生まれ変わっても繰り返す。成長しない限りはな。

友樹:
なら、また同じことを繰り返して、死ぬってことなのか?

龍也:
そうなる。
間違ったことして死んでるんだから、再度やり直しだ。

友樹:
抜け出す条件はないのか?

龍也:
自分が成長する、他者のために尽くす。それだけだな。
それができないなら何度でもやり直しだ。

友樹:
やり直し…。
それじゃ、このままだとずっとやり直しか。

龍也:
ここで変わるチャンスが来たわけだ。さて、どうする?

友樹:
なかなか、きついな。

龍也:
逆に俺で良かったかもな。
もっとすごいのは、一撃でえぐってくるから、エゴが出てきた瞬間に武器を持ってないのに切り捨ててくるぞ。
再起不能になるか逃げ出して二度と戻ってこない。
ネット上にはもっとすごい人がいるし、俺はまだまだだ。
言葉だけで的確にえぐられる一撃で、エゴを自覚してる人間は致命傷だ。

友樹:
…武器も持ってないのに切り捨てられるって、どんだけだよ。

龍也:
例え話だが、買い物で荷物が重そうだったから相方が『荷物持ってやろうか?』とか言った場合、熟練者だと、
『お前、それはエゴだぞ、いい加減にしろ。素直に持とうか? って聞け』って言われて自覚してると突き刺さってダメージを受ける。
多分、その言葉だけでエゴが反応して喧嘩になるかもしれないが、そういうことだ。
そういう反応をしないと相手に接することもできない、自分も相手にどう接すればいいか分からない。
素直になれない、そういうことだ。

友樹:
たしかに、そんなのは見たことがあるかも。

龍也:
さて、お前の名前は?
俺は、藤森龍也(ふじもりたつや)だ。

友樹:
石川、友樹(いしかわともき)。

龍也:
友樹、まだ今のままでいるか?
そろそろ終わりにしないと、このまま自滅することになる。
どのみち、世界は滅びに向かっているから、一緒に滅びるか進化するか、選ぶ必要がある。

友樹:
世界が滅ぶ?

龍也:
気づかないか?
最近は自殺が多いし、何よりも世界がエゴまみれになったことで犯罪が増えた。
変な力を使えるようになったっていうのが何よりの証拠だ。あんなの、人間が使っちゃいけないものだ。
今だけ良くても、いずれ後悔する。犯罪を犯してる奴らも最後に後悔する。

友樹:
……。
変われるのか…? 俺でも。

龍也:
エゴを認識すれば、色々と知れば変われる。まだ間に合う。
変わりたいなら俺の手を取れ。正しい道に導いてやる。

友樹:
…。
はい。

龍也:
いつから、その力が使えるようになったんだ?

友樹:
いつからだろう…?
高校の時だったと思いますけど。
初めの頃はいじめてる奴らとか、気に食わないのに使ってました。

龍也:
で、その結果で捻じ曲がって、増長したか。

友樹:
負けて分かりました。
今が良くても、いずれはダメになるって。内心は分かっていたんだ。
いつまでもこれでいいわけがないって。

龍也:
ま、変わる意思があるなら大丈夫だ。
人の話を聞く意思があるのもな。話を聞かないのはもう終わってるが、聞く耳があるのはまだ望みがある。
こんな言葉もある。
『そもそも馬鹿は人の話を聞いていない』と。

友樹:
…あー、それってもしかして、子供の話を聞かない親とかってやつですか?

龍也:
それもある。というか、その傾向が強いよな。
子供の話は聞かないが、テレビの話は熱心に聞く。身内の話は信じないが、テレビは信じる。
それが、今の世界になってる原因でもある。

友樹:
うちの親も、俺の話をちゃんと聞いてくれないのもありますよ。

龍也:
そうか。
でも、恨んでやるなよ。それが、そいつらが選んだ選択肢だ。滅びの側を選んだんだ。
俺は聞いてやるから、心配するな。愚痴があれば聞いてやる。

みゆ:
石川くん、ボーっとしてどうしたの?
ちょっと憂さ晴らしに適当なのに攻撃しに行かない?

友樹:
いや…、俺はもういいや。
…実を言うと、普通の人に負けてから、今までやってきたことに抵抗が出るようになったんだ。

みゆ:
負けたの?
どこのどいつ? 私が倒すよ。普通の奴なら余裕でしょ。

友樹:
普通なようで普通じゃない。多分、あの人には勝てない。勝っても意味がない。
だから、もういいよ。気にしないでくれ。

みゆ:
怪我はしてないようだし、どうやって負けたのか知らないけど、私が許せないからそいつ倒すよ。
名前は?

友樹:
藤森龍也さん。
相原さん、あの人には何もしない方がいい。勝てないから。

みゆ:
いいや、石川くんをこんな状態にしたんだし、気が済まないよ。
何よ、今まで楽しかったのが台無しになるじゃない。
潰すよ。そいつのところに案内してよ。

友樹:
…しょうがないな。
龍也さん、ごめん。

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